―― 第二章 ③ ――
仕事復帰してから、
思うように成果が出なかった。
時短勤務。
限られた時間。
夕方になると、
お迎えの時間が頭をよぎる。
もう一本電話をかけたい。
もう少し詰めたい。
でも、退勤の時間が来る。
本当なら残業して取り返す。
休日出勤で巻き返す。
それが、今までのやり方だった。
でも、それができない。
私は、
“以前の自分のやり方”を
使えなくなっていた。
成果が出ない。
でも、時間は増やせない。
会社には、
時短勤務でも結果を出している人が
たくさんいた。
私の上司も一児の母だった。
4歳年上の部長。
復帰して、異動して、
新しい環境で支えてくれた人。
大好きだった。
尊敬していた。
仕事も子育ても両立している姿が、
まぶしかった。
母になっても活躍している人が
私の会社にはたくさんいた。
だから思った。
やっぱり私には、能力がなかったんだ。
唯一、自信があったもの。
「結果を出せる私」。
それが、崩れていく感覚があった。
でも。
部長も支店長も、私を詰めなかった。
数字だけじゃなく、
過程を見てくれていた。
4年の間に、会社は少し変わっていた。
営業でも、
過程が評価されるようになっていた。
サボっているわけじゃない。
手を抜いているわけでもない。
それは、ちゃんと伝わっていた。
だから、責められなかった。
それはありがたかった。
でも――
私が、責めていた。
過去の自分と比べて、
今の自分に失望していた。
組織に属していて、
営業でありながら、
何も成果を出せない自分。
会社にとって、
いらない存在なんじゃないかと
本気で思っていた。
支店長が言った。
「自分のために使える時間がなくなったってことだよな」
その言葉は優しかった。
でも私は、
時間を失ったことよりも、
“以前の自分でいられないこと”のほうが
つらかった。
私は、
会社に追い込まれていたんじゃない。
過去の自分に、追い込まれていた。
“できる私”でいようとしていた。
いや――
“できる私”を、手放せなかった。
成果を出せない自分を、
いちばん許せなかったのは、私だった。
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