―― 第二章 ④ ――
それは、特別な日じゃなかった。
大きな失敗をしたわけでもない。
ただ、
少しずつ、
バランスが崩れていった。
仕事と育児を
両立している人は、いくらでもいる。
なのに私は、
どちらかを選ばなければ
回らないと
薄々感じ始めていた。
悔しかった。
自分のキャパの小ささを
突きつけられている気がした。
でも今なら分かる。
私1人で全部抱えたままでは、
もう続かなかった。
⸻
保育園に、
お迎え時間延長の電話をする日が続いた。
「すみません、仕事が長引いてしまって、遅くなります。」
電話を切るたび、
胸がざわついた。
ため息をついた。
会社にいれば、
もっとやりたいと思う。
区切りをつけられないのは、
会社でも上司でもなく、
私だった。
でも迎えに行けるのは、
私しかいない。
仕事も、
家庭も、
どちらも中途半端なまま、
どちらも手放せない。
でも心のどこかで、
もう選ばなければいけないと
分かっていた。
それを認めたら、
私はもう引き返せない気がしていた。
⸻
ある日、
お迎えがいちばん最後になった。
扉を開けた瞬間、
子どもたちはいつも通りの顔で駆け寄ってきた。
「ママだー!」
怒っていない。
責めてもいない。
ただ、嬉しそうだった。
その笑顔が、
胸に刺さった。
だからこそ、
私は怖くなった。
もしこのまま、
今の働き方を続けていったら
私はきっと、
もっと余裕をなくしていく。
そのしわ寄せは、
どこへ向かうのだろう。
“子どもとの関係が壊れてしまう未来”が、
見えてしまった。
⸻
限界は、
気づかないうちに、
確信に変わっていた。
気づいたら、
戻れないところまで
追い込まれていただけだった。
私は、
自分が壊れるのが怖かったんじゃない。
“子どもとの関係が壊れてしまう未来”が、
見えてしまったこと。
それが、
私の本当の限界だった。
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