―― 第一章 ④ ――
事務から営業に転身したとき、
正直、不安もあった。
数字を追う世界。
結果がすべてと言われる世界。
向いているかどうかも分からなかった。
でも私は、営業が好きだった。
契約が取れた瞬間。
あの、静かな高揚感。
数字が確定したときの、
揺るぎない証明。
「できました」と報告すると、
課長や支店長が笑ってくれる。
それも嬉しかった。
でも、それ以上に――
私は安心していた。
今日は価値がある。
そう思えたから。
⸻
成果は、証明だった。
頑張った過程ではなく、
数字という形で残るもの。
成果が出ていれば、
私はちゃんとここにいていい。
成果が出なければ、
私は足りない。
あの頃の私は、
本気でそう思っていた。
成果が出なかった日。
私は落ち込むというより、
「つまらない」と思っていた。
価値が証明されない一日。
そんな感覚だった。
だから、頑張った。
みんなが帰ったあと、
一人で電話をかけ続けたこともあった。
焦りというより、
当たり前だった。
成果が出ていないのだから、
足りないのは自分だ。
そう信じていた。
⸻
営業は、厳しい世界だった。
でも、ルールは明確だった。
努力よりも結果。
曖昧さがない。
そこでは、
自分の価値を疑わずに済んだ。
数字が出ていれば、
私は「できる人」だったから。
⸻
後になって思う。
私は営業が向いていたのではなく、
“成果で評価される世界”に
安心していただけだったのかもしれない。
でもその安心は、
どこから来ていたのか。
その答えを、
私はまだ知らなかった。
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