―― 第五章 ④ ――
保育園で、
前から素敵だなと思っていたママがいる。
落ち着いた雰囲気の人だ。
声が静かで、
子どもにガミガミ言っているところを
見たことがない。
動きもどこかゆっくりしている。
そして
そのママの子どもも落ち着いている。
男の子なのに、穏やかだ。
子は親の鏡というけれど、
本当にその通りだと、
自分とそのママを見比べて
落ち込みながらも
とても納得していた。
でも私は密かに思っていた。
「どうして私は
あのママに惹かれるんだろう」
⸻
ある日、他のママから聞いた。
その家のパパはパイロットで、
ママは現役のCAらしい。
正直、びっくりした。
パイロットとCA。
パワーワードすぎた。
しかも子どもは
3人いるらしい。
「え、どうやって
家回してるの?」
と普通に思った。
⸻
実はうちは、
当初は子ども3人の計画だった。
でも今は、
正直
「もう絶対無理」
と思っている。
2人でも
毎日いっぱいいっぱいだ。
それなのに、
子どもが3人以上いる家庭を見ると
すごいな、いいな
と少し思ってしまう自分がいる。
でもその「いいな」は、
子ども3人そのものへの
羨ましさじゃない。
子ども3人を育てられる
精神的な余裕とか、
家庭が回っている感じとか、
夫婦の関係とか。
そういうものへの
羨ましさなんだと思う。
だから私は、
そういう家庭を見ると
少し劣等感を感じていた。
⸻
家に帰ってからも
その話が頭から離れなかった。
退職したばかりだったし、
キラキラした職業が
羨ましいのかな、
とも思った。
でも、
なんか
ちょっと違う気もした。
子ども3人が
羨ましいわけでもない。
じゃあ私は、
何に
反応していたんだろう。
⸻
たぶん私は、
そのママの
「余裕」に惹かれていたんだと思う。
焦っている感じがない。
怒鳴る必要もなさそうな空気。
ああ、
余裕がある人って
こういう空気を
纏っているんだ。
そう思った。
⸻
よく考えてみると、
私はそのママの仕事を知る前から
「素敵だな」と思っていた。
だから本当は、
パイロットとか
CAとか、
そういう肩書きに
惹かれていたわけじゃない。
無意識に、
その人の
生き方の雰囲気
に惹かれていたんだと思う。
落ち着いた母。
そして
自分の人生も持っている人。
⸻
私はたぶん、
そのママより
10歳くらい年下だと思う。
40代くらいだろうか。
もしそうだとしたら、
今の私はまだ
途中の段階なのかもしれない。
⸻
私はまだ
全然そこまでいけていない。
むしろ今日も、
「やっぱり子育て向いてない」
と思いながら
自転車で帰ってきた。
それでも、
いつかあんなふうに
歳を重ねられたらいいな
と、少し思っている。
コメント