―― 第五章 ③ ――
朝の保育園送りは、
ほぼ交通整理だ。
家を出てから、
エレベーターを呼ぶボタン
エレベーターの中のボタン
駐輪場に入るボタン
保育園のドアのボタン
全部、2回ずつ押す。
子ども2人を連れて
毎日同じ場所に連れて行くだけなのに、
なぜこんなに大変なのか。
毎朝、疑問に思う。
⸻
我が家には
事故多発地点がある。
保育園に入ってすぐの
階段の前。
上の子は2階で過ごす。
下の子は1階で過ごす。
なのに、
上の子は急に止まる。
下の子は突進する。
靴を持って、
2人分の上着と
登園バッグを持って、
月曜日は
2人分のお昼寝布団も持つ。
だいたい両手が塞がっている。
そして上の子に
「ママ行かないで」
と、しがみつかれている。
その状態で、
「待って!!」
「ちょっと待って!!」
「先に行かないで!」
「落ちないようにね!!!」
と、大声で制圧しながら
事故を防いでいる。
⸻
朝はなるべく
穏やかに送り出したい。
今日は機嫌よく行けるかな、とか。
スムーズに行けたらいいな、とか。
一応、
毎朝少し期待はしている。
でも現実は、
最後の30秒で全部崩壊する。
朝ごはんを食べさせて、
着替えさせて、
トイレに行かせて、
子どもたちの機嫌を
損ねないように気をつけながら
ここまで
なんとか全部回してきたのに、
最後の30秒で
カオス状態になる。
⸻
ある日、私は思った。
これ、
どうにかならないのか。
イライラしていたというより、
普通に
解決策を探していた。
順番を決める?
先に動く人を決める?
先生に頼んでどちらか固定する?
いろいろ考えた。
でもそのうち、
ふと気づいた。
⸻
私はずっと、
あの階段がなかったら良かったのに
と思っていた。
でも、
たぶん私は
階段にイライラしていたんじゃない。
ここまで
全部うまく運んできたのに、
最後で一気に崩れることに
イライラしていた。
⸻
よく考えると、
子どもが2人いて、
行き先が違って、
私の手は塞がっていて、
しがみついている人がいて、
目の前には階段。
つまりこれは、
私の能力の問題というより
構造的に無理な問題なのでは?
と思った。
⸻
子育てをしていると、
私の能力の問題も
もちろんたくさんある。
でも、
どう頑張っても
構造的に無理なこともある。
最近は、
そういうこともあるんだと
思えるようになってきた。
⸻
子どもたちが事故を起こさないように、
朝は必死に
交通整理をしている。
でも帰り道、
最後の30秒で
私の朝の努力を全部崩された
気持ちのまま、
真顔で
内心怒りを爆発させながら
爆速で自転車を漕いでいる。
たぶんあの時間、
私が一番
事故に近い。
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