―― 第一章 ① ――
母になってから、私は少しずつ自分を後回しにしていた。
私はお風呂に入らない日が増えた。
2、3日入らないのは、普通だった。
子どもたちはどうにか入れる。
でも私は、とりあえず寝かしつけをして
そのあとに入ろうと思いながら、
途中でどちらかが起きて入り損ねる。
「また明日でいいか」
そうしているうちに、何日も経っていた。
罪悪感は、不思議となかった。
泣きたくもならなかった。
「誰にも見られないから、まあいいか」
それがいちばん近い感覚だった。
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大学では服飾を学び、
ファッションは私の生きがいだった。
スカートしか履かなかった私が、
授乳や抱っこ紐、公園遊びに合わせて
パンツばかり選ぶようになった。
汚れてもいい服。
動きやすい服。
好きな服は、もう着られない気がしていた。
ずっと通っていたお気に入りの美容室にも
行けなくなった。
月に一度必ず整えていた髪は、
プリン頭になっても気づかないほど、
どうでもよくなった。
仕事復帰直前、円形脱毛症ができていた。
それにもすぐ気づけなかった。
あの頃の私は、
自分のことを本当に見ていなかった。
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「母なんだから仕方ない」
そう思い続けていた。
もう戻れない。
母になる前の私は、終わった。
しんどくなった夜、
布団の中で声を押し殺して泣いた。
子どもたちは隣で眠っている。
起こさないように、でも声を出して泣いた。
「私は母になるべきじゃなかったのかもしれない」
そんな言葉が、何度も頭をよぎった。
向いていなかったのかもしれない。
残念だけど、私には無理だったのかもしれない。
でも、それでも。
子どもは愛しかった。
ただ、“私”がどこにいるのか、
わからなくなっていた。
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後になって、
私は自分の生き方の癖に気づいた。
人の期待を優先してしまうこと。
自分の感情を後回しにしてしまうこと。
母になったことが原因だったわけじゃない。
もともとあった私の歪みが、
母という役割で一気に膨らんだだけだった。
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あの夜の私に、
いま「大丈夫だよ」と言い切れるほど、
私はまだ強くない。
私は、まだ整理の途中だ。
それでも、
あの夜の私を、
なかったことにはしたくない。
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