―― 第三章 ② ――
あの夜、私は泣き崩れた。
怒りもあった。
でもそれだけじゃない。
ずっと張りつめていたものが、
音もなく切れたような感覚だった。
円形脱毛症が見つかった直後だった。
「ああ、やっぱりか」と思った。
心より先に、
体が限界を出していた。
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育休中の4年間。
私は、子どもが生まれてからずっと、
ひとりで回している感覚だった。
夫は仕事をしていた。
私は家を回していた。
役割分担、と言えば聞こえはいい。
でも私の中では、
時間軸が違った。
同じ家に住んでいるのに、
別行動。
同じ一日を生きているのに、
同じ時間を共有していない。
私は、ずっと孤独だった。
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そしてあの夜。
私は叫んだ。
「本当に変われよ!
いい加減変われよ!」
完全に責めていた。
優しくなんてなかった。
でも、そのあと。
私は言った。
「私、1人じゃもう無理だよ。」
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それは、
弱さの告白ではなかった。
「助けて」でもなかった。
同じチームに入ってほしかった。
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それまで私は、
夫をずっと敵のように見ていた。
でもよく考えてみると、
家族って本当は味方だよね。
チームだよね。
そう思った。
戦いたかったわけじゃない。
横に並んでほしかった。
同じ方向を向いて、
同じ時間の中で、
一緒に動いてほしかった。
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夫は敵じゃない。
同じゴールに向かって、
一緒に作戦会議をする人のはずだった。
そんな当たり前のことを、
私はあの夜、
やっとの思いで言葉にした。
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この日、
私は夫を追い詰めたかもしれない。
でも私は、
構造を壊したかった。
“ひとりで回す母”という前提を。
それが崩れなければ、
私はきっと
壊れ続けていたと思う。
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あの夜は、大喧嘩だった。
でも同時に、
家族がやっと
同じスタートラインに立った夜でもあった。
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