―― 第四章 ② ――
退職したあと、
私はこれからどう働くのかを考えていた。
でも正直に言うと、
いちばん最初に考えていたのは
仕事のことではなかった。
保育園を続けたい。
その気持ちだった。
幼稚園に転園する、
という選択肢ももちろんあった。
でも私はどうしても、
その未来を想像できなかった。
子どもと向き合う時間が増えることは
本当は良いことのはずなのに、
正直に言うと、
急に距離が近くなりすぎることに
自信がなかった。
退職したばかりの私は、
まだ心の余裕が戻っていなかった。
子どもと向き合う余裕がない自分を
毎日見続けることになる気がして、
それが少し怖かった。
情けないけれど、
それがいちばん正直な気持ちだった。
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それに、理由はもう一つあった。
上の子は、
一度転園を経験している。
仕事復帰の前、
1年ほど認証保育園に通っていた。
だから今回、
もし幼稚園に転園することになれば、
また環境が変わる。
慣らし保育のとき、
下の子ももちろん大変だったけれど、
上の子の方が
ずっと大変だった。
慣らし保育が
終わらないまま復帰したような
感覚だった。
心が成長している分、
環境の変化の負担も
大きかったのだと思う。
あの経験を、
もう一度させるのは
できれば避けたかった。
もうこれ以上、
子ども達に負担をかけたくない。
それも、
私の本音だった。
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そしてもう一つ。
今の保育園が、
本当に合っていた。
1クラス9人の、小さな園。
のびのびした雰囲気で、
子どもたちは毎日楽しそうだった。
先生方は
子どもをただ預かるだけじゃなく、
親のことまで
支えてくれる存在だった。
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慣らし保育がうまく進んでいなかった時、
園長先生が、
迷いなく言ってくれた言葉がある。
「この子は、
認めてあげれば大丈夫です。」
優しく励ますというより、
答えを見抜いているような言い方だった。
私はその言葉を聞いて、
救われたというより、
「あ、やっぱりそうなんだ」
と思った。
まだ通い始めて
数週間しか経っていないのに、
この子のことを
そこまで見てくれているんだと
驚いた。
先生ってすごいな、と
心から思った。
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あのとき私は、
子育てに悩みながらも
この子には、もっと
「認めてあげること」
が大事なのかもしれない
と、薄々思っていた。
でもそのあと
仕事復帰をして、
生活は一変した。
毎日を回すことで精一杯で、
その気づきは
どこかに置き去りになってしまった。
それでも、
あのとき園長先生が
言ってくれた言葉は、
ずっと心の中に
残っていた。
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私は思った。
この場所を、
離れたくない。
子どもにとっても、
私にとっても、
大切な場所になっていた。
だから私は、
保育園を続けることを前提に
これからの働き方を
考えることにした。
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